*
「さあ! 審査員の判定やいかに!」
実況のゲロ安(げろやす)が大声でがなり立てる。カレー大好き料理人・ムライは固唾を飲んで審査員の飯食子(めしくうこ)を見つめている。
――大丈夫、大丈夫だ。俺の料理があんなクソ天然パーマに負けるわけがねえ。俺は一回戦なんかで負けるわけには行かねえんだ!
ムライは対戦相手のカルキ・ザ・ロードスターをチラリと見る。カルキはモジャモジャと笑っている。
――ちくしょう、ニヤニヤしやがって。いけすかねえ野郎だ。
ムライが舌打ちをした瞬間、食子が口を開いた。
「この勝負……カルキ選手の勝ちです!」
凍ったバナナで脳天を殴られたような衝撃がムライを襲う。
「ちくしょう! なんでだ! 俺の料理が負けるはずがねえ!」
ムライは叫ぶ。しかし火の見やぐらの上の食子は涼しい顔で答える。
「説明しましょう」食子は冷たい視線をムライに投げかける。「まず本大会はアイデア料理大会。この意味を貴方はわかっているのでしょうか」
ズッギャアアアァァァン……! 言葉を発するだけですさまじいプレッシャーだ。ムライは何も答えることができない。
――ちくしょう!さすが審査員……。喋っただけでなんだあの効果音は……! おかげで何を言ったか全然聞こえなかったぜ……!
「あなたの料理……。カレー丼といいましたか。なんですか、これは。丼によそったご飯にカレールーをかけただけ。普通のカレーライスと何が違うのかしら」
食子の声は凍ったバナナのように冷ややかだ。
「いやー、ムライ選手は痛いとこ突かれましたねえ」実況のゲロ安が間の抜けた声を出す。「しかし私は以前すき家でカレー丼なるメニューがあったと聞いたことがありますが、その点はどうなんでしょうか」
解説の耳晴(みみはる)が答える。
「正確にはカレー南蛮牛丼ですね。あれは通常のカレールーを使用するのではなく、牛丼に合うように和風だしを用いたカレー南蛮をかけていました。それと比較してもムライ選手のカレー丼はアイデア不足である感が否めませんねえ」
凍ったバナナのように冷徹な解説。食子がさらに追い打ちをかける。
「おまけになんですかこのカレールーは! スパイスに泥水を加えて一昼夜煮込んだような味! とても人様に出せるようなものではありません!」
食子がその口から放つ凍ったバナナという名のイナズマがムライを責める。
「ちくしょう! ちっくしょおおお!」ムライはそう叫ぶことが精一杯だった。
――ちくしょう! 隠し味で入れた泥水が裏目に出やがるとは! 地中海の泥使ってんだぞ!
「それに比べてカルキ選手、あなたの料理はなかなかよいアイデアでした」
食子は先程とは打って変わっておいしいバナナのような優しい声でカルキに語りかける。
「あなたの作った団子カレー、粗はあるもののカレー丼と比べれば随分とよい出来でした。カレーうどんに着想を得て麺を団子に替えたそうですが、アイデア料理大会の趣旨もきちんと捉えられていますね」
「クッククック……趣旨を疎かにするなんてこたぇしないさ。舐めてもらっちゃ困るぜぇ」
カルキは不敵に笑う。
「うどんにカレーが合うように、団子にもカレーは合わないことはなかったわ。うどんの方が美味しいと思うけれど。しかし注目すべきはカレールー。なかなか美味でした。カルキ選手、あなたはどうやってこのルーを……?」
「ここで調理現場の録画映像を見てみましょう」
解説の耳晴が促す。この料理大会は先入観を与えないようブラインド形式で調理が行われる。カルキの調理シーンを見るのは皆これが初めてだ。
「おっとお……? これは……?」ゲロ安は首をかしげながらも実況する。「カルキ選手、ココイチのレトルトカレーを湯煎で温め……団子にぶっかけたあ! なんと! カルキ選手はレトルト食材を使用した模様! いいのか! いいのかこれでぇ!」
「いいわけねえよ! いいわけねえよなぁ!?」映像を見たムライは食子に訴えかける。
「おっとムライさんよ。忘れてもらっちゃ困るぜ、料理の真髄をよ」
カルキがムライを制する。
「料理の真髄……だと?」
「ああ。ムライさんよ、料理とは何だと思う?」
そう尋ねるカルキに対し、ムライは戸惑いながらも答える。
「料理ってのは……そうだな、丁寧に食材を扱い、心をこめて味付けをして、皿の上に自分自身の世界を造り上げることだと……俺は思ってる」
「いいや違うな! 料理ってのはそれを食べる人のためにあるもんだ! ソイツが美味かった、食べてよかった、って思うことこそが大事なんだ!」
突然のカルキの熱弁にムライはたじろぐ。
「そして俺は! 俺が作るカレーソースなんかよりココイチさんのカレーの方が美味いと信じてる! 俺は自分よりもココイチを信頼してんだ! 事実審査員もココイチのカレーを美味いと言ってくれた……。それが何よりも大事なんじゃあねえかなあ、ムライさん、そして食子さんよォ!」
ズギャアアアァァン! 狂ったバナナのような衝撃がムライの体を駆け抜ける。ムライはもはや立っているのがやっとのように見えた。しかし、その眼にかすかに宿る光を、食子だけは見逃さなかった……。
【次回予告】
怒りにより覚醒したムライのお料理能力、クレイジー・バナナ(バナナが狂う能力)がカルキを襲う。しかしカルキもお料理能力、ブラック・パスタ(自身の天パを自由に操る能力)で応戦する。
膠着状態が続くムライとカルキの間に突然割って入ったのは、理(ことわり)を超えし存在、超理人(ちょうりにん)たちだった……!
彼らの目的は一体何なのか! そしてアイデア料理大会の行方は……!
次回、『たぎる涙で湯通しを!』
汝、調理せよ!
*今日のレシピ:団子カレー
材料
だんご粉:好きなだけ
ココイチのレトルトカレー:人数分。あなたの街のココイチで買うのが手っ取り早いです。
手順
(掲載写真には、よくある手前と奥がやたらぼけた加工が施されています。苦手な人は帰ってください)
1. だんご粉に水を加えてこねます。
2. 童心に帰って団子を小さく丸めます。棒状にして等間隔に包丁で切ってから丸めると大きさが均一になります(写真は均一ではありません)。丸めた団子は皿の上などに置くとくっついてしまうので、キッチンペーパーの上に置くとよいです。
3. たっぷりのお湯で団子をゆでます。浮かんできてから一分たったものからお湯からあげ、冷水で冷やします。同時にレトルトカレーを温めておきましょう。
4. カレー皿に団子を入れます。
5. レトルトカレーを無心に上からかけます(写真では分量をミスっています)。
6. Let's ごはん!
~ちょっとひとことコーナー~
ココイチのおいしさの3割はトッピングに、2割はあの福神漬にあると言われています(天パ調べ)。お好みのトッピングや福神漬を添えてもいいでしょう。
ただし、正直カレーうどんの方がおいしかったです。
どうせ団子つくるなら生クリームかけた方がよっぽど美味いぜ!
それじゃあばよ!
いい飯 食えよ!
[広告]