その後輩の女の子は、なんだかいつも寂しそうな目をしていたのだ。みんなで集まって騒いでいても、ふと見ると一人で寂しそうな顔をしていることがよくあった。
俺もリア充的な騒ぎ方は得意な方ではないので、その子の寂しげな顔を見るたび、ああ、なんか親近感があるなぁ、俺もいつもああいう顔してんだろなぁと思って、その子が一人で寂しそうな時はちょくちょく声をかけていた。
「大丈夫?」
ある日、やっぱり寂しそうな顔をしているその子に俺がこう話しかけた時、その子は言った。
「先輩はいつも私が寂しくなってる絶妙なタイミングで声をかけてきますね」
やっぱりそうだったのかと思った。同類だなと。一人が楽でいいけれど、たまにとてつもなく寂しくなるあの感じ。寂しがりやの一人好きというやつ。多分この子もソレだろう。なので、そなたはきっと寂しがりやの一人好きというやつでござろう、ワシもそうなのじゃ、と言った。
するとその子はこう答えた。
「あ~やっぱり先輩もそうでしたか!そうなんですよそうなんですよ!」
そしてこう続けた。
「私も寂しがりやの一人好きなんです!でも違うんです!一人になるのは好きだけど、一人にされるのが嫌なだけなんです!」
一人になるのは好きだけど、一人にされるのが嫌なだけ!
拙者はそのフレーズにひどく胸を打たれた。肋骨が折れるかと思った。これはひとつの真理だなと思った。ソイツはなるほどワッショイだぜ!と感嘆した。
俺「なるほどう!それは真理だわ!超わかる!でもよく考えるとそれってすんげえワガママやんな!自分が一人になりたい時はほっといてね、でも寂しい時は構ってね、ってか!」
後輩「そうなんです私ワガママなんですよう!」
俺「人間なんてそんなもんだ!ワッショイワッショイ!」
後輩「ワッショイワッショイ!」
男の後輩「何楽しそうなことしてるんすか!」
俺「ワッショイだ!」
3人で「ワッショイワッショイ!ワッショイワッショイ!」
だいたいこんなノリだったように思う。
そしてその夜の帰り道、私はこのようなことを考えた。なるほどこの人気(ひとけ)の無い夜の道のような空間はとても好きだ。あのまま夜通し騒いでもよかったが、私は一人になるという選択肢を選んだ。そうして静かな夜の空気と暗い空の雰囲気を楽しんでいる。対して、皆が騒いでいる中、ふと誰からも話しかけられなくなる瞬間。そういった瞬間、私は他に何も選択肢を提示されぬまま「一人になる」という選択肢だけを飲み込まされているのだ。「選べる」ということが、存外人間の精神状態に大きな影響を与えておるのやも知れぬ。「一人」と「独り」を隔てる暗い濁流の源泉は、そんなところにあるのだろうか。いやいや、そんなに小難しく考えずとも、畢竟人間はわがままであると、仲間達から疎外されるのは嫌なのだと、ただそれだけの結論でよいのかも知れぬ。
疎外。この言葉の意味をきちんと知ったのは高校の倫理の授業だったか。人は疎外されることを、つまり仲間はずれにされることを恐れる。人は一人では生きていかれない。疎外されるということは、存在の軸を蹴り倒されるようなものだ。そもそも周りに「他人」がいなければアイデンティティなど生まれようもない。
大部分の人は意識の根底で、あるいは非常に顕在的に、疎外されることを強く恐れる。私も、例えば高校時代のような学校という閉じた世界で生きていた頃は特に、「疎外」に敏感だった。あの世界で疎外されたら何を寄る辺に生きていけばよいのか。今ならいくらでも他の道を示唆できようが、あの頃の視野は極めて狭かった。だからやたらと友達を求めたし、自分のアイデンティティを補強したいというだけの理由で恋人を求めたりもした。そんな一人よがりの生き方は褒められたものではないし、事実たくさんの失敗をした。そして一々死ぬほど悩んだ。あのような情熱的な懊悩を経験しなくなったのはいつ頃からだろうか。
若さ故、なのかもしれない。若さ故の、嵐のような悩みを抱え、自分の存在価値が何度も殴りつけられるような時期を、疾風怒濤の時代と呼ぶそうだ。少なくとも私はその表現に納得せざるを得ない。青春とは嵐だ。
未熟であるが故にアイデンティティが定まらず、疎外を恐れ、過剰に承認を求めるあまりに失敗を繰り返し、思い悩む。春の嵐なんてフレーズを聞くと、あの青春時代の嵐を思い起こさずにはいられない。
そんな感じでおしまいよ。
終わりに
疾風怒濤の時代などとかっこつけましたが、端的に言うと黒歴史。疾風怒濤ってのはシュトルム・ウント・ドラングの訳語で、これも倫理の授業で習った。気になる人はググってね。
青春の嵐。青い嵐と言ってもいいかもしれない。青嵐といえば百鬼夜行抄を思い出す。
なんか自分でも何が言いたいのかわかんなくなっちゃったんだけど、「一人になるのは好きだけど、一人にされるのが嫌なだけ」 という言葉がすごくしっくり来るなぁと思って、それを共感して欲しかっただけです。疎外せんといて!
なんかいいオチが着かないからうんこの歌を貼っときます!
これはうんこと疎外の歌とも言えましょう。切ない曲です。
じゃあなみんな!あばよ!