思惟ノート

天然パーマとオッサンを応援する、天然パーマによるブログ

人魚に手をひかれ、海の深くへ沈んでいく。

 

綺麗な夢を見た

人魚に手をひかれ、海の深くへ沈んでいく。綺麗な所を見せてくれるという。なるほど真に綺麗なものがあるとすれば、それは地上などではなく、人の手の及ばない海の底にでもあるのかも知れない。

僕たちの周囲を囲むのは限りなく黒に近い青だ。僕はなぜだか仰向けになって手を引かれている。人魚は僕の左手を掴み、僕は引かれるまま頭の方に左腕を伸ばしている。なんだか変な格好だ。人魚は進行方向に顔を向けてぐんぐんと進んでおり、よほど素直な格好をしている。まあ、こちらの方が、ベッドの上で眠りながら沈んでいくような、不思議な心地よさがある。僕は仰向けのまま、生き物のように蠢く海面を見上げる。海面で揺らめく月の光は、軟体動物の体表を覆う粘液のようだ。紺色の世界で、銀色の粘液だけが唯一の実在であり……ただ、それにしてはあまりに頼りない。

僕は実家から小学校に向かう途中の道を思い出していた。不器用にコンクリートで覆われたその道の上を、銀色の曲線がぐねぐねとどこかに向かっていた。あれはナメクジの通った後だったのだろう。そうでなければ蝸牛だ。月光を受けてきらきらと輝くそれは、今までの持ち主に似合わず美しかった。

そうだ、僕は確かに綺麗なものを知っていた。知っていたのに、どこかで見失ってしまった。それらを失くさなければ、今頃こんな所にはいなかったかもしれない。

人魚は相変わらずぐんぐん泳いでいく。水面を仰いでいる僕に彼女の顔は見えないが、きっと彼女は微笑んでいるだろう。彼女は最初から微笑んでいた。しかし、どこまで潜るのだろう?このままでは水圧で潰されてしまう。にわかに恐怖を覚えるが、僕は人魚と手を繋いでいるのではなく、あくまでも人魚に手首を掴まれているので、仕方なく沈んでいくしかない。それに、何故だろう、綺麗な所を見てみたいという欲求が僕の中で耐えがたいものになっているのだ。

 

気が付くと洞窟の中だった。僕は相変わらず仰向けで、目の前に見えるのは天井だ。ごつごつとした薄灰色の岩で構成されている。洞窟とはいっても、僕の体の周囲30cmほどをぐるりと囲む細長いものだ。岩でできた血管のようだと思った。僕が横たわっている白い砂利は、さしずめ沈殿した白血球か。ところで、洞窟を照らすこの光はどこから来ているのだろうか、洞窟の中は、さっきまでいた海中よりも明るい。水圧、水圧は大丈夫だ。ひょっとすると、「綺麗な所」に対する溢れんばかりの欲求が、膨大な水圧を押し返しているのかも知れない。それほどまでに僕の欲求は膨れ上がっていた。ともすれば海に入ってから今まで、僕が呼吸を必要としていないことにも説明が付けられるかもしれない。例えばこの欲求が僕の肺を押し広げ、それに伴いヘモグロビンと赤血球の解離曲線が変化するという仮説はどうだろう。そもそも人間の欲望には持ち主の生命を活性化させる作用があり……。気の抜けた「気を付け」のような姿勢で僕は、岩の天井を見つめながら考えを巡らせる。そして気付く。

気を付け?なぜ両手がだらしなく胴体に添うているんだ?

僕の左手は人魚が握っていなくては駄目じゃないか!

人魚がいない!どうして今になっていなくなるのだ。導き手を失った僕は途方もない孤独を感じる。孤独。僕を襲うのは行く先を見失った不安では無く、その身を預けてきた杖を失ったことによる孤独だった。濁流が音を立てて頭に流れ込んでくる。欲求という堤防が決壊したのだろう。孤独が欲望に勝利してしまった。耳元で、いや耳の中で轟々と海が渦巻いている。脳の代わりに海水が詰まった僕の頭蓋。目を瞑り、頭を抱える。僕の頭が洪水だ。気が遠くなる。

 

気付くと立方体の中にいた。いや、これは灰色の部屋だ。右隅に女性がうずくまってすすり泣いている。白い布を被っていて顔はわからない。その布が白いヴェールのように見えるせいか、絵画で見た聖母マリアに似ていると思った。けれど、姿勢のせいだろうか、ひどくみすぼらしく見える。部屋の左側の壁には、床にどっしりと根を下ろしたような大きな柱時計が立っている。針の音がカチコチといやに大きく響く。僕の頭に詰まった海水が一緒に震えているのかもしれない。

女性と柱時計が部屋の両側で圧倒的な存在感を示しているので気付くのが遅れたが、部屋の中央には木製の椅子が置いてある。こちらに背を向けていて、その背には紙が貼りつけられている。名前が書いてある。

『イシュタルト・ロット』

誰の名前だろう。そもそも何故人名だと思ったのだろう。地名か何かかも知れないのに。

「イシュタルト・ロットは綺麗な所を探しに行ってしまったよ」女性が涙まじりに言う。その声で気付いたが、この女性はひどく年老いているらしい。「イシュタルト・ロットは私をおいて、そのドアから出て行ってしまったよ」老婆が柱時計の方を指差す。柱時計に隠れて気付かなかったが、なるほどそこにはドアがあった。

ドアを抜けた。目の前には銀色の道が、ぐねぐねと曲線を描きながら続いている。銀色を照らすのはやはり月だ。するとこの道はイシュタルト・ロットの通った跡で、彼(彼女?)はナメクジの仲間なのかもしれない。今思えばあの老婆の姿もナメクジのようだった。満月を仰ぎながら、僕は道を進んで行く。

 

 

 

ふええ……

この夢を見たのはもう何年も前になるが、いままで見た夢の中で一番好きだ。

椅子に貼っつけられてた名前は正確には覚えてないけんど、イシュタルト・ロットみたいな語感だったんよ。

というかもはや全体的に正確には覚えていない。この文章は夢を見た日に書き留めたものをちょいちょいわかりやすく書き直したものだ。これは素敵な夢や!と思って記録しておいたのだが、そうしておいて正解だったかな。文章じゃ伝わりきらんかもしれんけど本当にいい雰囲気の夢だったのじゃ。

もう一度こういう夢を見たいものだ。そう思いながらぐうぐう寝てんだけどなかなかいい夢は見られない。

こないだ見た夢なんか大きなおっぱいの女性に誘惑されるというものだったし。うん、いや悪くなかったけどね。ああもうおっぱいの夢でもいいです。そうですねおっぱいの大きな人魚の夢が見られればいいんじゃないでしょうか!

 

 

そういえばあの頃は安部公房を読みあさっていた時期だから、ひょっとすると人魚伝を読んだせいで人魚の夢をみたのかもしれん。安部公房は僕にはむつかしすぎて正直あんまり良くわからないのだけれど、雰囲気がとにかく好きなんじゃよ。

人魚伝はこの短篇集に載っとるよ。

無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

無関係な死・時の崖 (新潮文庫)

 

 

 

でも安部公房で一番好きなのはやはり『壁』ですね。不思議の国のアリスを書こうと思ってこの小説を書いたと解説に書いてあった気がする。もう雰囲気大好き。

説明には実存がどうの孤独がどうのと小難しいことを書いてあるがそんなん知らんわい。僕にはよくわかりません。雰囲気だけ楽しむというのもひとつの楽しみ方ということで許してくれ。

壁 (新潮文庫)

壁 (新潮文庫)

 

 

 

みんなも安部公房を読んで変な夢を見よう!

おっぱいの歌も貼っておきます。じゃあね!


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